第1章 母

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それは、父と母が一緒に暮らしていないということ。家庭の問題というわけでなく、最近、国の制度で決まったことなので抗えない。人口が増えすぎてしまったことで、政府が夫婦の別居という策を講じたのだ。 細かいルールがあるのだが、大きなルールが3つある。 1つ目は、別居。 2つ目は、自宅の距離。近所である必要がある。 3つ目、子供がいる場合、1週間ごとに入れ替え。つまり、この1週間母のところで暮らしたならば、次の1週間は父のところ、というように繰り返すというものだ。その制度が今週から施行された。 「もう遅いからお風呂はいってきな」 母にそう言われ、風呂場へ向かい、シャワーで済ませる。手早く髪を乾かしリビングへと足を運ぶ。風呂上りの体にはフローリングがひんやりと冷たい。 「もう上がったの?そういうとこお父さんにそっくり」と母が少し頬を緩ませて言った。 「うん、今日ははちょっと早めに出ただけ。もう寝るね。おやすみ」 「わかった。夜更かしはだめよ。おやすみなさい」 そうは言われたものの、自室で布団に入ってもなかなか寝付けない。こういったことを父に直接聞いても良いのだろうか、ましてや親に。出来ることならば、円満だと良いのだが…。あの父のことだ、良くも悪くもプラスでもマイナスでもないとかそんなことなのではないだろうか。そんなことを考えているうちに時間が過ぎ、結局眠れたのは朝日でカーテンの色がほんのり明るくなってからだった。
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