Kiss

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「母さん、行って来ます」 玄関から声をかけると、「待って」と母さんがキッチンからパタパタと走って来た。 「お弁当忘れてるわよ。こっちは伊織君の分だから、渡しておいてね」 「うん、わかった」 「ねぇ、颯斗。 この頃、伊織君とは一緒に登校してないみたいだけど、どうしたの? 夕飯だって、颯斗を待たずに先に食べて帰っちゃうし。 もしかして、あなた達ケンカしたの?」 母さんの言葉に、俺は首を横に振った。 「ケンカなんかしてないよ」 「そう? それならいいけど」 「じゃあ行って来ます」 「行ってらっしゃい。気をつけてね」 母さんに見送られながら玄関を出ると、俺はいつもの通学路を一人で歩き始めた。 確かに母さんの言う通り、この頃伊織の様子がいつもと違う。 合宿から戻って以来、先に学校に行くようになったし。 夕飯だって俺より先に食べてしまうから、この頃学校以外で伊織の姿を見かけなくなってしまった。 こんなこと初めてのことかもしれない。 今までどんなに俺が部活で遅くなっても、必ず俺を待って一緒に食べる伊織だったのに。 一体、どうしたんだろう……。
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