628人が本棚に入れています
本棚に追加
「母さん、行って来ます」
玄関から声をかけると、「待って」と母さんがキッチンからパタパタと走って来た。
「お弁当忘れてるわよ。こっちは伊織君の分だから、渡しておいてね」
「うん、わかった」
「ねぇ、颯斗。
この頃、伊織君とは一緒に登校してないみたいだけど、どうしたの?
夕飯だって、颯斗を待たずに先に食べて帰っちゃうし。
もしかして、あなた達ケンカしたの?」
母さんの言葉に、俺は首を横に振った。
「ケンカなんかしてないよ」
「そう? それならいいけど」
「じゃあ行って来ます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
母さんに見送られながら玄関を出ると、俺はいつもの通学路を一人で歩き始めた。
確かに母さんの言う通り、この頃伊織の様子がいつもと違う。
合宿から戻って以来、先に学校に行くようになったし。
夕飯だって俺より先に食べてしまうから、この頃学校以外で伊織の姿を見かけなくなってしまった。
こんなこと初めてのことかもしれない。
今までどんなに俺が部活で遅くなっても、必ず俺を待って一緒に食べる伊織だったのに。
一体、どうしたんだろう……。
最初のコメントを投稿しよう!