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「あれ? もしかしてあんたって、伊織とよく一緒にいるヤツ?」
俺の存在を知っていることに驚いて、思わず目を見開いた。
「うん、そうだけど」
そう答えれば、その男は軽い足取りで俺の方に近づいて来た。
「伊織に用事?」
まるで女みたいな顔で尋ねるその男。
同級生の女子にはない妙な色気に、不覚にもドキッとした。
「いや、特に用はないんだけど」
伊織が放課後何をしているか心配で後をつけた、とはさすがに言えない。
「ふぅん。
ところで、あんた。
伊織があんなすごいギターリストだってこと知ってた?」
この男に聞かれて、なぜか胸がチクンとした。
「いや、知らなかった……」
隣に住んでいるのに。
伊織がギターを弾いていることを、知っていたのに。
こんなにすごいなんて、俺は知らなかった……。
「やっぱそうか。
アイツ、友達にも誰にも、あのギターを聴かせてなかったんだな。
初めてアイツの音を聴いた時、ものすごい衝撃だった。
あんなすごい潜在能力を持ったヤツが、こんな身近にいたなんて」
そう言って、プレハブ小屋の方を見つめるその男。
その視線は、伊織だけに強く注がれていた。
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