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「じゃあ、また明日」
「アラタ、いおりん、お疲れー」
今日の練習が終わって、ベースのカイトとドラムのリョウマがプレハブ小屋を出て行く。
さて、オレも帰るかな。
そう思ってギターを片付けようとするオレを、アラタが「待て」と止めた。
「何?」
「さっきの曲のギターソロ、もう一回弾いてくれる?」
さんざん練習したのに、また弾けって言われたことに一瞬ムッとしたけど。
オレは言われるままソロを弾いた。
だけど、アラタはやけに難しい顔をしている。
「まぁ、確かに上手いよ。
悪くはないんだけど、なんか物足んない」
「はぁ?」
物足らないって、何が?
「あの河川敷で、初めてお前のギターの音を聴いた時の衝撃。
あれが、全く感じられないんだよ」
アラタの言葉に、オレは呆れたように息を吐いた。
「そりゃあさ、何でも最初がビックリするじゃん。
だんだん慣れて来るんじゃねぇの?」
「いや、そうじゃない。
あの時のお前と今のお前、何かが違うんだよ。
お前、あの河川敷で演奏してた時、何か考えてなかった?」
「えー? オレ、基本ギターを弾いてる時は何も考えてないんだけど」
だからあの時も、何も考えてなかったはずだけどな。
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