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それは、ほんの一瞬の出来事だった。
それがキスだとわかった時には、アラタはもうオレから唇を離していて。
「なっ!」
ビックリしたオレは、思わず自分の口を手の甲で覆った。
「アラタ! てめぇ、いきなり何しやがる!」
大きな声で怒鳴ったら、後ろの壁に後頭部をガンとぶつけた。
男にキスされるなんて!
ありえない!
「何をそんなに慌ててんの?
もしかして伊織、キスするの初めて?」
「わ、わわ悪かったな! 初めてで!」
どうせオレは、恋愛経験なんてねぇよ!
女にモテた試しがないんだから。
「ふぅん。じゃあ俺が伊織のファーストキスの相手になるんだ。やったね」
「何が"やったね"だ。バカ野郎!」
そう言った後で、なぜか急に悲しくなった。
オレの初めてのキスが、こんなふうにからかい半分で奪われるなんて……。
まぁ別に、大事に取っておいたワケでもないけど。
でも……。
やっぱ初めては、好きな人としたかったなあって。
そんなことを思った。
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