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「あれ? 今日、伊織来なかったの?」
「あら、どうしてわかるの?」
夕食後、いきなり尋ねた俺に母さんが不思議そうに言った。
「だって、伊織の食器がない」
食べ終わったお皿をシンクに運んだら、すぐにそのことに気づいた。
いつもならここに、伊織が使った食器が置かれているから。
「今夜は晩御飯いらないって連絡もらったのよ。
お友達と一緒に食べるんですって」
「友達……?」
「伊織君、高校に入ってから仲良しの友達が出来たのね。
小さい頃から、颯斗以外の友達にあまり心を開かないから心配だったけど。
もう大丈夫そうね」
母さんが言うように、伊織は俺以外のヤツには心を開かなかった。
遊ぶ友達や、話す友達が全くいないわけじゃないけど、どこか距離を置いていることを知っていた。
それは、伊織を子供の頃から知る母さんや俺だからわかることで。
中学の頃の同級生は、おそらくそんな伊織のことには全く気付いていないだろう。
夕食と入浴を済ませると、俺は2階の自分の部屋に入った。
勉強でもしようかと、勉強机の椅子に腰を下ろしたその時。
伊織の部屋から、何やら話し声が聞こえて来た。
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