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「なっ、い、いつからいたんだよ?」
ゴリラだった僕は急に真顔になる。
「なんか悟空のモノマネみたいなあたりから」
「勝手に入って来るなよ」
「なにやってんの? なんでゴリラなの」
美紗は僕の部屋に入って来て、ベッドに腰かける。
「いろいろ大人の事情があるんだよ。子供のお前に分かるわけもない。俺の部屋に入って来るな」
「葉山さんって誰なの? お兄ちゃんが片想いしてるの?」
「違う、お前に関係ないだろ」
「お兄ちゃん、女心が分かってないからな。妹の私のアドバイスを素直にきいたら、きっと告白してもうまくいくよ。私さ、女心アドバイザーって友達に呼ばれてるのよ。女心なら私にお任せあれ」
美紗は中学三年生、兄の僕と違って、明るく社交的で友達も多い。きっと学校でも一目置かれる存在になっているはずだ。
「まあ、お前のアドバイスなんていらないけど、なんだったら、参考までに意見を聞いてやってもいいぜ。五百文字以内で意見を述べてみよ」
僕は無関心を装って美紗のアドバイスに耳を傾ける。
「お兄ちゃんは地味で影も薄いから、普通に告白してもだめだよ。もっと変化球で攻めないと。さっきのゴリラなんか最高だよ。ゴリラで告白されたら、たいていの女の子はオッケーするよ。ていうか、お兄ちゃんはゴリラじゃないと振られるよ。ゴリラしかないって」
「ほんとうか?」
「うん、ゴリラなら女心を掴めるよ。面白いし、すごい変化球だから、きっと告白してもうまくいく。私が太鼓判を押すから!」
「そっか、そんなもんか」
「ゴリラしかないって。じゃなきゃ、お兄ちゃんは振られて電車に飛び込む運命だよ。未来が手に取るように見えてるよ。困ったことがあれば、いつでも女心アドバイザーの私に相談してね」
美紗は笑いを噛み殺したような不思議な表情で部屋から出ていく。
それから僕は日夜ゴリラの特訓をする。
渾身のゴリラで告白すべく、僕は身も心もゴリラになりきる。
汗だくになって、へとへとになって、ようやくゴリラの告白動画を完成させる。
苦労の末、どうにか葉山さんの連絡先を入手する。
この想い届け!
ウホウホウホホ!
僕は震える指で、葉山さんにゴリラの告白動画を送る。
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