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家が無人の瞬間を見計らって、僕は自分の部屋に立てこもる。
スマホを録画モードにして、僕は背筋を伸ばして椅子に座る。
なんだか映画俳優にでもなったみたいだ。まだ本番じゃない。練習してみるつもりで、僕はスマホに向かって語り始める。
「やあ、葉山さん。僕が誰だか分かるかな? そう、同じクラスの渡辺真一です。実は葉山さんに伝えたいことがあって、この動画を撮影しています。最後までみてくれたら、うれしいです」
僕の声は緊張のあまり震えそうになる。頬も真っ赤になっているかもしれない。落ち着け。ただの練習だ。録画しているなんて意識するな。でも、こんな出だしでいいのだろうか、なんだか間抜けな探偵みたいに思われないだろうか。もっと想いを、溢れる想いを葉山さんに届けなければ。
「僕はその、中学校のときから、なんていうか、その、葉山さんの、素敵な、なんていうか、あの、僕はもう、は、葉山さんに、その、あの、もう夢に、なんてさ、だから、僕はもう、ああもうだめだ」
だめだ! 葉山さんを意識するあまりにしどろもどろになってしまった。何を言っているのかさえ分からない。僕は緊張すると頭が真っ白になってしまう。心臓がばくばく音を立てていて、学校から家まで全速力で走って帰って来たみたいだ。このまま心臓発作で死んでしまうかもしれない。この動画が僕の遺作になってしまうのか。
作戦を練り直す。もっとポップにいったらどうだ。もっとポップで明るい感じに告白するのだ。きっとそのほうが葉山さんも受け入れやすいだろう。
「ヘイホー! はーい、おれ、渡辺。葉山さんの同級生さ。そんなことは百も承知だってね。だってさ、おれ、あんたにもうぞっこんなんだ。なんていうか、君に胸キュンって感じ? いわゆる恋の病ってやつにかかっちゃって、全治十五年の重傷さ。あんたのことを考えると夜も眠れないんだ。だからさ、おれと付き合ってくれよ、ベイビー。だってもう、おれ、ほんとにあんたのことが好きなんよ。なあ、おれと付き合おうぜい、ヘイ!」
ちがう! ださい、ださすぎる。無理にポップにしようとしたら、田舎者丸出しになってしまった。ふざけたDJみたいになってしまった。僕はふざけているわけじゃない。葉山さんに素直に告白したいのだ。
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