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『自分の事ばかりで、守れない』  雅也さんの言う通りだった。僕は守られることしかできないガキ。克己さんをただ独り占めしたくって、意地張って背伸びして克己さんを困らせるばかり。  重い空気がのしかかる。沈んでいると、額にそっと優しい感触があたる。もう痛い程身に染みているのに……。わずかな痺れがジワリと盛り上がり、視界が揺らぐ。克己さんの唇は額からゆっくりと降り、鼻の頭にも触れた。  優しくされればされるほど、ドンドン悲しくなる。逃げ出したいのにそれすらまた克己さんを苦しめるだけなんだ。目の縁から耐えきれなくなった水玉がポロッと零れ頬を弾いた瞬間、克己さんの唇と僕のが重なっていた。  散々求めたものが与えられた。なのに、僕の中に浮かぶ感情は「なぜ?」という疑問だけだった。  恋愛対象じゃないのにどうして?   決まってる。これはただの優しさ。お情けだから。  込み上げる想いを閉じ込めたくて、僕はゆっくりと強く瞼を閉じた。唇がそっと離れていく。 「……連れていきたい場所がある。外は寒い。厚着をしよう」  克己さんの声は優しかったけど、なにか強い意思のようなものが感じられ僕は頷くことしかできなかった。克己さんの指示通り厚手のダッフルコートを着て、僕らはただの人のように玄関から外へ出た。  ガレージの中には大きくて真っ黒な車が一台。それに乗り、屋敷を出る。 「車を運転するのは久しぶりだよ」 「うん」  初めて克己さんの車に乗った。流れる街の灯り。都会の光り輝く建物の間を車で通り抜けるのは初めて。でも少しも楽しい気分になれない。  車は高速に乗り、都会を離れていく。  きらびやかな街の灯りはすぐに見えなくなり、ポツンポツンと遠くに工場みたいな建物が見えるだけになった。しばらくすると、それすらも見えなくなる。ただただ低い山並みが続く。光っているのは道路の両脇にポツンポツンと並ぶ照明だけ。 「真と私のふるさとへ向かっているんだよ」 「……埼玉? 克己さんもそうだったの?」  克己さんは前を向いたまま、小さく頷いた。 「もう、あの村は無くなったと聞いたけどね」
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