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 伸ばす僕の手を握り、小屋の裏へと入っていく。  裏山は完全に真っ暗闇だった。月明かりも木々で遮られ届かない。でも克己さんには関係ないみたいだった。まるで昼間のように戸惑うことなくサクサクと足を進める。 「ここは段になっているから気をつけて」 「うん」  克己さんは気遣ってくれたけど、僕も夜目は利く。これもやっぱり狼人間だからなんだろう。昼間の方が眩しさで全体がぼやけて見えるのも生まれついての疾患のようなものだとずっと思っていたけど、今思えばこれが正常な状態だったのだとわかる。  かなり険しい山道を歩いて、やっとたどり着いたのは大きな岩の前だった。二つの岩が折り重なるように支え合ってる。初めて来た場所で、もちろん目にするのも初めて。だけど、なぜかほんの少し懐かしいというか、妙に馴染むような感覚がした。 「……ここは昔、神の領域だと言われていたんだよ」  克己さんが岩を見上げながら、僕の手をキュッと握った。月明りに照らされた克己さんの綺麗な横顔を見上げながら、僕も克己さんの手を握り返した。 「神の……?」  たしかに二つの大きな岩はただの風景の一部というより、特別ななにかを感じさせる威厳がある。  その時、遠くで物悲しい遠吠えが聞こえた。  ウォォォォ……。  遠吠えに応えるように、続けてまた遠吠えが聞こえる。あちらこちらと視線を向けていると、克己さんが言った。 「昔、この場所は狼たちのものだったんだ」  狼たちの遠吠えを聞いてると、応えたい衝動が込み上げる。 「うん」  克己さんがココへ僕を連れてきたのは、僕自身になにかゆかりがあるってことなんだろう。父さんからはなにも聞いていない。でも、なぜ克己さんが? 吸血鬼だから狼人間に詳しい? だとしても、どうして? これは観光なんかじゃない。克己さんは目的があって僕をここへ連れてきた。  なにか大事なことでもあるのかな……。
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