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目が覚めたのは朝の七時だった。
すごく昔の夢を見た。温かくて、優しい夢。
首から下げている御守りを握った。
身体はいつも通り傷一つ残ってない。見た目が砂と土、血でドロドロと汚いだけ。みぞおちはさすがにまだ少し痛みが残っていた。
シャワーで汚れを落とし、洗濯機を回す。
「あの人、大丈夫かな?」
置いてきてしまった人がどうなったのか気になった。どこに運ばれたのかはわからないけど、とりあえず現場から一番近い大きな病院を訪ねてみることにした。
緊急入口に向かい、クンクンと匂いを嗅ぐ。血液と彼の匂い。居る。匂いをどんどん辿り院内を歩き回って、なんとか彼を見つけることができた。
彼は大部屋で眠っていた。僕とは違い、包帯だらけでひどいありさま。でも、彼の呼吸も心音も正常だった。顔をパンパンに腫らし、目を閉じている彼に深く頭を下げた。
ちゃんと救えなくてごめんなさい。
きっと、他にやりようはいくらでもあったんだ。考え無しに飛び込んで彼をこんな状態にしてしまった。彼は僕とは違うのに。
僕は結局なにもしていない。
拳をギュッと握り、病院を出た。
黒い天使さんを探さなきゃ。
探してお礼を言いたい。昨日はちゃんと言えなかったから。
現場へ戻り、今度は天使の匂いを辿る。天使の匂いは独特で澄んだ夜の匂いがした。
会いたい。その思いが残り香をより濃く感じさせた。
三十分程歩いて住宅街に入った辺りで、丁度テレビで紹介されていた有名なケーキ屋さんを見つけた。オープン前なのに、もう人が五人も並んでる。
そうだ、お土産を買っていかないとね。
列に並んでオープンを待つ。ショーケースにはキラキラと光る色とりどりのケーキがたくさん並んでいた。宝石みたいなケーキを六個詰めてもらう。
天使さん喜んでくれるといいな~。
空を見上げれば一面の青。いいお天気だ。僕の足取りも軽やかに進む。もうすっかりみぞおちの痛みも消えてなくなっていた。
香りの行きついた先にあったのは、背の高い塀に囲まれたすごく立派な大きな白いお屋敷だった。
天使さんの名前は知らないけど、確かにこの家から天使さんの匂いがする。
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