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俺のことが大好きな弟、どこにでもついてきたがる弟。
今、我慢すれば、明日、明後日は弟と一緒にいられる。村長に土産をもらって、弟に美味しいものを食べさせてやれる。
細く頼りない身体でも、その顔をいっぱいの笑顔にする健気な姿が瞼に浮かぶ。
俺が守るんだ。
「あ、あ、ああああああっ、いやあっ」
村長の熱い飛沫を受けながら、俺は達した。最初は痛くて苦しいだけだったのに、いつの間にか身体が慣れてしまった。こんなに嫌なのに。帰りたいのに。身体はビクビクと痙攣して、浅ましく腰が揺れる。自分がどんどん汚れていくのが分かった。
もう昔には戻れない。なにも知らなかったあの頃には……。
弟だけが、唯一の心の安らぎだった。
いつも家に帰れば、一目散に走って来て俺に飛びつく弟。「にーたん、おかえりっ」と体全部使って抱きついてくる。俺はその小さな身体を抱きしめ「よっ」と抱き上げた。土産を渡せば、目を輝かせ喜び、いつも半分よこしてくる。とても美味しそうに土産を頬張り「あーとぉ!」と言う。
弟の笑顔を見れば、嫌なことは全部忘れた。
むしろの上、寄り添い合って横になる。すぐ隣で眠る弟。静かに閉じた瞼。カールしたまつ毛に、ぷっくりとした桃色の小さな唇を無防備に緩ませる無垢な寝顔を見れば、今日がどんな一日だろうと、明日になにが待ち受けていようと穏やかな気持ちで眠りにつくことができた。
その弟が流行病にかかり、アッサリと死んでしまった。
寒い冬の夜だった。
熱に浮かされながら小さな手で俺の手を探し、握ってやれば頼りない力でずっと離さないでいた弟。
「がんばれ。病気が治ったら、川で遊ぶんだろ?」
弟は「ふぅふぅ」と息を吐きながら嬉しそうに頷いて目を閉じた。それが最後だった。一生懸命上下していた小さな胸はもうピクリとも動かない。
俺は弟の亡骸を抱きしめ続けた。
冷たくなっていく弟に体温を分け与えるように。
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