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 翌朝、弟は小さな桶に詰められ村の外れの場所に埋められた。その一角は流行病で死んだものだけが埋められる場所だった。墓石さえなかった。  俺は死んだも同然だった。動くこともできず家の中で横たわっていた。親もたいそう気を落としていた。もう自分も死にたいと思った。  その夜、呆然としていると隣の部屋からボソボソと声が聞こえた。「死んだのが上じゃなくて良かった」と話す両親の声。  空っぽだった場所にカッと赤いグツグツしたものが込み上げる。怒りと憎しみで胸が苦しくなった。己への怒りだった。守ると誓ったのに、守れなかった。あんなに大事に思っていたのに。  死ぬことしか考えなかったのに、怒りのせいで力が湧いた。  俺は真夜中を待ち、家をこっそり抜け出した。弟が埋められている場所へ行った。土を掘り起こし、桶の蓋を開けると、弟は脱力したようにグッタリしていた。  弟だけ引っ張り出し、もう一度桶を埋める。冷たい弟を背負い、墓地とは反対側にある村の外れの家を目指した。魂を失った小さな身体は石のように重い。「にーたん!」と可愛らしい声を上げ、抱きついてきたあの温もりはどこにもない。  村のはずれ――。  そこには噂では百三十歳を超えるという老婆が住んでいた。真っ白な髪を結うことなく、だらしなく腰まで伸ばし、いつも毛皮を肩から掛けてブツブツと独り言を呟く気味の悪い老婆だった。  村の住人の大半は老婆を薄気味悪いと感じていて、どうにか村から追放したいと思っていたようだった。  俺が村長に弄ばれ、ぐったり横になっている時、数人の村人が村長を訪ねてきた。目を閉じ、俺はそいつらの会話にぼんやり耳を傾けた。
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