プロローグ

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 自分は何者なのか――  そんな哲学的な疑問が子供の頃から僕の頭の片隅にずっと居座っている。  どうしてそんな小難しいことを考えてしまうのか。きっかけはとても単純だった。自分と他のみんなが違うとわかってしまったからだ。  僕には母がいない。でも、違いはそういう環境や、メンタル面の話ではなくて、僕自身の身体的な特徴の違い。  僕の見た目は一見、周りの人となにも変わらない。胸のところにちょっと大きな痣があるけど、服を着ていれば気づかれることもない。  違いは痣のことじゃなくて、例えば全速力で走った時。怪我をした時。おもいっきりジャンプをした時。  そして、たぶん感情的になってしまったとき。  なぜ、たぶんかというと、父さんからそう教わって育ったから。僕がひどく感情的になると父さんはいつもすぐに駆け付けて優しく宥めてくれた。心を静める(すべ)を教えてくれた。  僕の中に潜む違いが他のみんなにバレてしまわないように。  僕は幼い頃からずっと心がけてきた。  なにかが違う。でも、僕はそれがなんなのかがわからない。違いの理由もわからない。僕はわからないものをずっと隠し続けている。  僕のことをみんなが知らないように、みんなもそれぞれなにかを押さえて隠しているのだろうか?  そして、自分が何者なのか。みんなはわかっているんだろうか?  僕の名前は、塚元真(つかもとまこと)。  塚守神社の宮司、塚元平(つかもとたいら)の長子。母はいない。父はずっと僕を守り、育ててくれた。間違いなく僕の父で、父は僕を真神(まかみ)様より授けられたのだ。  僕には大切な御守りがある。首からさげてある神社の御守りの水晶だ。父がくれたもので、僕になにかある度に守ってくれる御守り。  僕の個性はちょっと珍しい。傷の治りがすごく早かったり、本気で走れば誰よりも早い。どんな些細な音もどんなに遠くの音でも聞き分けられるし、臭覚もまたそれと同じ。  僕の持つこの個性は真神様からの大切な贈り物だから、安易にひけらかしてはいけない。そして、もう一つ。父からの大事な教えがある。 「己を信じ、善と悪を見極めよ。善を守護し、悪を罰せよ。そして、――人を傷つけてはいけない――」                                     塚守神社は大口真神という日本狼が神格化した聖獣を祀っている。
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