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 それはいつもの見慣れた光景だった。 「ウッ! ……っがは……」  数人の男が輪をなしている。その中でボールのようにコロコロ転がり回っているなにか。真夜中の大都会の片隅。アルコールと暴力の匂いに混じる血の香りに俺は鼻をクンと鳴らした。今晩の食事にありつこうと気配を消し、街灯りがとどかない裏路地へ近づく。 「オラ、立てよ! まだ終わっちゃいねぇぞ。寝てんじゃねぇ! 起きろ」  賑やかな飲み屋が連なる大通りとは一変した、狭く暗い裏通りはいつも澱んだ空気とジメジメした湿気が漂ってる。  ここは狩り場だ。  どれだけ時代が流れようと文明が発達しようと関係ない。力のある者が弱者をなぶり殺し、喰らい尽くす。ならば、俺はその頂きとして存在してもおかしくないだろう。全ては弱肉強食の決まりごとだ。  ボールのように身体を丸めた二つの物体は、今や無様な格好で道路にへばりついていた。ひとりはピクリとも動かない。もうひとりはそれでも必死に身体を丸め、己をガードしているようだ。しかし、もう体力も残っていないだろう。
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