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呆然としていた三人目の男が悲鳴を上げ、その手からボロボロになった男がドサッと崩れ落ちた。
必死で逃げるヤクザ風の男。タンと地面を蹴り、その男の前へ下りた。男はこれ以上開いたら目玉が落ちてしまうのではないかと思えるくらい血走った目を大きく見開く。その男が悲鳴を上げるまえに、首へ噛み付き一気に吸い上げた。
「ひゅ、う、は、あ……」
男は急激に消えていく命の火を感じたのか、怯えた表情で俺を見ていた。やがて恐怖の色すら消え、老人のようにやつれていく。これ以上ないほど吸い上げ、男から離れた。振り返り、まだピクピクと痙攣している二人を掴み上げその血も全部頂く。かなり満腹だ。
重なり合った骸に手をかざし、いつものように焼却した。青い炎は一瞬で骸を灰にする。かざした手を払うように握れば、炎は消え灰の山だけが残る。血しぶきは……まぁ、これくらいならいいか。ここで喧嘩があったのは明白だ。
それから「ああ」と思い出し、道にぶっ倒れている男たちへ近づいた。ひとりは完全に気絶していた。死んではいない。骨が五、六本折れている程度か。
もうひとりの少年の面影を残す男を見下ろした。虚ろな瞳で見上げてくる。力ないまばたき。
こちらはもっと大丈夫そうだ。あばらの骨くらいは折れているかもしれないが……。
俺は屈み、男の頬を撫で、前髪をそっと横へすいた。
やっぱり似ている。弟が生きていれば……こんな風に成長したのかもしれない。
「大丈夫か?」
低く耳元で尋ねると、男はわずかに笑おうとして腫れた顔を歪めた。痛くて声も出せないらしい。
「……救急車を呼ぼう。そして忘れなさい」
ふっくら柔らかい頬を両手で包み、見上げる目をジッと見た。男の瞳がなぜか少し寂しげに揺らいでいるように見える。三人の男たちが息絶えたのを見て、恐怖に震えているのならわかるが、男からは恐怖を感じなかった。
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