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 優しい克己さんに、どんどんと僕は狡くなる。  克己さんは食事に行くのに……。 「一緒に寝てくれる?」  克己さんを見上げて言うと、克己さんの目が細くなった。穏やかに微笑んでくれる。 「ホットミルクを用意して、私もパジャマに着替えよう。真は先にベッドへ入ってなさい」  克己さんのコートを離し、小さく頷いてもそもそと克己さんのベッドに潜り込む。克己さんはそれを見てニッコリ笑うと、外出着を脱ぎいつものパジャマへ着替え、「待ってて」と居間の方へ続くドアを開けた。ドアは開いたまま。携帯もまだコートの中だ。  冷蔵庫から牛乳を取り出しミルクパンで温める物音がクツクツと聞こえる。 すぐにマグカップを持った克己さんが戻ってきた。  ベッドのサイドテーブルへマグを置く。 「ゆっくり飲んでみて。落ち着くから」 「ありがと」  ちょっと体を起こしマグカップを手に持った。  ベッドの横で立ったままの克己さんに「ベッドへ入ってよ」とジッと見つめ訴えた。克己さんは笑いを堪えた表情で本棚から一冊の本を取り、ベッドへ入ってくれた。クッションを立て、そこにもたれる。僕は安心して克己さんの作ってくれたホットミルクをすすった。  克己さんと同じ甘くて優しい味が口いっぱいに広がる。 「美味しい」 「それはよかった」  歌うように返事をして、克己さんが本を開いた。読みかけの小説らしい。読書する克己さんの隣でゆっくりホットミルクを喉へ流し込むと、体内がポカポカと温まった。
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