647人が本棚に入れています
本棚に追加
家に着いたのは六時頃だった。門の前で鼻が疼く。
まさか……。
外門を解除し、焦る気持ちで鍵を出し玄関を開ける。男物の革靴が揃えて置いてあった。
ドクンドクンと徐々に鼓動が大きくなっていく。
まさかもなにもない。来てる。出入り禁止って言ったのにっ!
腹の底から込み上げる熱に拳をグッと握った。寝室にいるのはわかってる。寝室へ突撃しかけて、自分の手を握りグッと耐えた。
あの場面を想像するだけで僕の体内はゴウゴウと熱を放つ。首から下げた御守りを握りしめ歯を食いしばりながら、大股で足早にリビングへ向かう。
アピールするように勢いよくドアを開けると、克己さんの寝室のドアが開いた。中から出てきたのは雅也さんだ。スキのない黒のスーツ姿が威圧感を感じさせる。
僕は黙ったまま雅也さんを睨んだ。
「そんな怖い顔をするなよ。もう帰るから」
雅也さんは片方の唇だけ器用に上げて、一歩前に出た。僕は引いてなんかなるもんかと腹に力を入れる。
「克己は今、血を補給したところだ。しばらくしたら回復するだろうから、おとなしく待ってろ」
その言葉にピンと張りつめていた緊張が切れる。
「え……回復って」
雅也さんの腕を掴み、縋るように詰め寄った。そんな僕を雅也さんは見下ろし、淡々とした口調で言った。
「俺たちの食事は毎日じゃなくてもいい。だが四日空けるのはキツイ。お前は肉がメインらしいから理解できないかもしれないが」
キツイ……お腹が空くとかそういうレベルの話じゃなかったってこと?
「克己は、以前は三日おきに食事をしていた。でもお前が来てからは、お前をひとりにしたくないと言って、四日空けるようになった。昨夜は五日目の夜だったんだ。意味はわかるよな?」
僕は呆然と頷いた。
すごく無理をさせてたんだ。分かってたつもりで、全然分かってなかった。
最初のコメントを投稿しよう!