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「昨夜絞ったばかりのフレッシュなのを飲ませた。衰弱していて自分でグラスも持てなかったから、少しづつ俺が飲ませたよ」
「……ごめんなさい」
すっかり勢いも熱もぶっ飛んでしまった僕は顔を上げることもできなくて、床を見つめながら頭を下げた。
「克己もバカだよ。いくら弟が可愛いからって、自分が弱ったら」
「雅也」
克己さんの声がしてパッと顔を上げた。
足音も聞き取れなかったけど、閉じてた寝室のドアが開いていて、克己さんがバスローブ姿で立っていた。いつもと変わらぬ微笑みを浮かべ、僕を見ている。
「克己さん……」
床を蹴って克己さんに抱きついた。大きく広げた腕が僕をギュッと包んでくれる。
「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」
「大丈夫だよ。心配掛けてごめん。雅也の言うとおり、私がバカだったんだよ」
頭を思いっきり左右に振った。リビングに入った時とは別の感情が込み上げ、目の縁から溢れそうになる。克己さんは僕のことを一番に考えてくれるのに、僕は自分のことばっかりだっ。
「バカは僕です」
「真は知らなかったんだ。それだけだよ」
克己さんの声はすごく優しい。それだけに、自分のしてしまったことが、自分が憎くてたまらない。僕は本当にバカだ。
しがみつく僕の背を克己さんは変わらず撫でてくれる。
「やれやれ。麗しき兄弟愛だな。お邪魔虫は消えるよ」
「来てくれてありがとう」
呆れた声を出す雅也さんに克己さんが声をかけた。僕はしがみついていた腕を解き、雅也さんに向き直って頭を下げた。
自分の都合で勝手に目の敵にしてたのに……。
こんなガキじゃ、雅也さんに到底敵わないと思い知らされる。
「本当にありがとうございました」
「じゃ、俺はこれで」
雅也さんはヒラヒラ手を振ると、何事もなかったように居間から出ていった。今日一日考え抜いて、小賢しい思いつきにウキウキしてた自分が情けなく、恥ずかしい。
僕は克己さんにもう一度「ごめんなさい」と頭を下げた。自己嫌悪で顔が上げられない。二階へ退散しようと思ったのに、克己さんは俯く僕の顔を両手でガシッと掴み、クイッと上げた。目の前にはニコニコ笑顔の克己さん。
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