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「弟、弟ってうるさいな!」
怒鳴った瞬間、雅也さんの目が赤く光った。無表情なのに怒りのオーラを感じる。
「お前は自分の痛みしか目が向かないくそガキだよ。そんな子供が、あいつを守ってやれるのか?」
「グルルルルルルルルルゥウ」
喉の奥から唸り声が響く。
図星を突かれた僕は気が付いたら布団をめくり、いつかの教授みたいに雅也さんめがけ低い唸り声を上げていた。
そんな僕を見て雅也さんがフフンと冷笑した。
「お前なんかその気になれば片手で殺せる。そうしないのは、克己がお前を愛しているからだ。そんなことも分からないガキに振り回されている克己が哀れだよ」
「グググルルルッ! ウウッガウッガウガウッ!」
お前には関係ない。出て行け! と声に出しているつもりだった。でも、部屋に響くのは獣の地響きのような唸り声と吠える声だけだった。
「ッキャヒ」
唸り声は甲高くも情けない叫びに変わった。雅也さんの腕がグイと僕の首を抑えたのだ。ベッドへ押し付けられ、あっという間に両手は頭の上でひとまとめに掴まれ、僕はベッドに貼り付けになった。
圧倒的な力量の差。深い闇が侵食するように覆い迫る。
もう唸り声も上がらない。なすすべもなく竦む身体。見開く目の周りの筋肉が恐怖に痙攣する。背中からブラックホールに飲み込まれそうになる意識をなんとか引き上げる。
僕は勢いよく体を左右に捻り暴れた。でも、跨る雅也さんの重みで身動きは取れない。虚しくもがき続ける僕を雅也さんが見下ろし言った。
「どうやったら克己が気持ちよくなるのか教えてやろうか?」
全身がサッと冷たくなる。
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