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一瞬にして状況が把握できた。別の意味で背筋がブルブル震えあがる。
い、嫌だ。誰でもいいわけじゃない、したいわけじゃない!
無意味でも足をバタバタばたつかせた。
「ゥグウウウガッァウ……グどけ……っ!」
「真っ!」
バン! と勢いよくドアが開き、克己さんが飛び込んできた。僕の上にいる雅也さんを見た瞬間、雅也さんへ飛びかかった。雅也さんはヒラリと天井まで飛びあがり、克己さんが僕を覆うように抱きしめた。いつも血色の薄い肌が、さらに真っ青になっている。
「大丈夫? なにもされてない?」
僕は二人の勢いに圧倒され声もなく頷いた。大きく張り出した牙も徐々に萎むように引いていく。克己さんは目を大きく見開いたまま、かすかに震えながら僕の頬を撫で、首や肩を確かめるように触れてホッと息を吐く。そして、僕をギュウギュウと力強く抱きしめた。
「良かった……」
すっかり僕は元の姿に戻っていた。
気が付けば、雅也さんの姿はどこにもない。神出鬼没なその芸当はさすが吸血鬼。わずかな残り香で感じとれたのは、黒い霧が窓の隙間から出て行った気配だけだった。
克己さんが顔を上げた。その目はうっすら潤んでいる。
「怖い思いをしたね。ごめんね?」
「……ううん」
優しく慰める声に、どうしていいのか分からず返事を零す。
克己さんは僕を大事にしてくれる。異常なまでに。ピンチになればすぐに来てくれる。……でも、僕が望むのはそんなんじゃないんだ。
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