しらぬは

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 女子高生アリサの趣味は、インターネットで動画を配信することだ。退屈な学校から解放され、インターネットにどっぷり浸かって、カメラに向かってあれこれと喋る。内容は、新作コスメを試したり比較したり、フルメイクの過程なんか。たまに話題のお菓子やファストフードの食レポなんかもする。そこそこ固定のファンもついてきて、日々配信するのが唯一の楽しみだった。  しかし今回は、夏休みなのだからと、いつもと違う企画を用意した。「肝だめし企画」と題して、家の近くのパワースポットへ撮影に行くのだ。告知をしたときのファンのリアクションも上々。これならば、視聴回数の最高を更新するかもしれないと、アリサは期待していた。  として当日。逢魔が時、浴衣を着たアリサは配信を始めた。空は紅く、蜩が絶え間なく鳴いている。 「はーい!こんばんは!あーりんです。 今日は肝だめし企画ということで、神社に行ってみたいと思いまーす。 そしてなんと、浴衣を着てみました~。」  コメントには 「かわいい?」 「あーりん浴衣似合う」 「和風美人」 「蝉うるせぇww」 と、アリサの期待していたコメントが並ぶ。一通り褒められると、今度は、 「あーりん太った?」 「着崩れしてる」 と、マイナスなコメントも来る。これも彼女の想定内だ。いちいち気にしはしない。  ただ一つ。気になるコメントがあった。 「〇〇市」と地名だけのコメントだ。〇〇市とは、いまアリサがいる市。少し気味が悪いが、いたずらだろうとアリサは配信を続けた。 「コメントありがとうございます~、じゃあさっそく、心霊スポットの方へ行ってみまーす。」  アリサは歩き始めた。向かうのは、人気のなくなった神社。パワースポットとして有名なのは本当だ。雑誌で紹介されたこともある。だが心霊スポットとしては、あまり有名ではない。というより、心霊スポットだというのは、半分嘘だ。この辺りは、人通りが少なく、山があり、そういう噂が立ちやすいというだけ。その噂というのも、夜たまたま近くを通ったら変な物音がした、とか、何十年も前に神社の木で男が首を吊ったとかだ。もっとひどいのは、この神社のある山には、山男という妖怪がいる、という、昔話かと突っ込みたくなるような話まである。
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