しらぬは

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 勿論アリサはそんな噂など真に受けていない。変な物音は、野良猫でもいたんだと思う。人が首を吊った木なんて、探せば他にもある。その上、男が死んだのは戦前だという。今更化けてでる意味がない。そもそも古い神社なのだから、それくらいあっても不自然じゃない。妖怪は…………言うまでもない。ただの言い伝え、子供に言うことを聞かせるために作り上げられた怪物だろう。はやく寝ないと、山男に連れていかれる……とかなんとか言って子供を寝かしつけていたに違いない。  薄暗いなかに、鳥居が見えた。 「あっ、鳥居が見えてきた」  石でできた、ありきたりの鳥居だ。だがコメントは沸いている。 「おっ!」 「それっぽくなってきたな」 「あーちゃん気をつけて」なんて、アリサを気遣うコメントもある。 「心配ありがとうございます」  そんなことをいいつつ、コメントを眺めていると、その中にまた、「〇〇神社」と、神社の名前だけのコメント。それに反応して、 「ここ?」 「特定?」 「あーりん逃げてww」 なんてふざけたコメントが増えた。  コメントされたのは、この神社の隣、隣といっても2キロほど離れたところにある神社の名前だ。アリサは、いたずらだろうと、また無視して続けた。 「はーい、じゃあ入って行きます」  このあたりで、肝だめしっぽいことをしゃべっておくかと、地元の噂話を喋る。 「この神社、昔男の人が首を吊って死んだ木があるらしいんですよ~、ヤバくないですか?夜とか変な音したり、妖怪がいるって話もあって~」 コメントは大盛況だ。 「ガチで?」 「こわ」 「ヤバくないか、それ」 「怖がるあーりんかわいい」  その中に、また、例のおかしなコメントが混じる。 「△△神社」  アリサの背筋に、冷たいものが走った。ここの神社の名前だった。誰かに見られているようで、気分が悪い。  今どきネットで調べれば、この神社がなんという神社かなんて簡単にわかる。だがそう考えてもアリサは気味の悪さを拭いきれない。  まさか、このコメントをした人間が、ここの近くにいるのでは?そう思って、辺りを見回す。夕暮れの境内には、誰もいない。その代わりに、カラスが本殿の屋根でガアガア鳴いていた。
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