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 得体のしれない不安感に襲われる。その晩、母屋に戻った忠誠に、史が昼間の報告を入れた。 「千鶴子様とお会いしたんだってな」  彰から切り出す前に、忠誠から話し出した。少し不機嫌そうな、ぎくしゃくした雰囲気を感じる。 「事前に話しておくべきだった。すまない」  千鶴子を今日、屋敷へ呼んだのは白木で、書生の柊が来年からアメリカへ留学する手続きをする為だったと聞いた。忠誠は千鶴子とは会っておらず、招くのは承知していたが、事前に母屋へも連絡を入れるべきだったと謝罪した。  西大路の先代が亡くなり、爵位を嫡男が継いで、未亡人となった千鶴子。そして、西大路の分家に秋月があること、尚礼の母は、千鶴子の実妹だと聞かされた。  忠誠は婚約の段階から、千鶴子との間に子をもうけるつもりはなかった、と言った。その為には千鶴子は都合が良かった。  既に西大路の爵位は息子が持っており、再婚したところで子をもうけずに済む。豊かな生活さえ与えれば、忠誠の目論見に協力する約束だった。  結局、その計画は白紙になり、結婚も資金援助もなくなったが、縁だけはどうしても切れなかったそうだ。  現、西大路伯爵はとても気位の高い人らしい。母である千鶴子のことすら見下し、伯爵以下とは直接の面会もしない。故に千鶴子というパイプは、必要不可欠だった。 「まさかお前と顔を合わせることになるとは思わなかった」  全てを聞いて、彰は納得はしたが胸の霧が晴れることはなかった。  千鶴子のあの視線。口元に浮かべた笑み。それが彰の脳裏に、べったりと焼き付いていた。
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