プロローグ

2/2
332人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
「う……あぅ、うぐ……」  ごぽり……不快な音を立て、胃から水分が上がってくる。吐き出したそれは透明で、血ではなかった事に少しだけ安堵した。 「はい、あ――……ん?」  そう言って目の間に出されたソレは、普通のソレとは違っていて、彰は全身が恐怖で震えた。 「ほら、早く。殺しちゃうよ?」  殺されたほうが断然マシだ――。歯を噛みしめ、縮こまると、止んでいた殴打が再開された。痛みには耐えられる、意識だけは手放すな……。そう言い聞かせても、弛緩する体に、喝を入れるのは限界があった。  不格好に変形したソレが唇をなぞる。涙が止まらない――。 (忠誠(ただしげ)様、ごめんなさい……)  下衆な笑みと、視界の隅に映る仕立てのいいコート。その顔を忘れないでいよう……。それだけを誓い、彰は意識を手放した。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!