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「あら、いらっしゃったかしら?」
玄関のドアの向こうから、何やら楽しげな声が聞こえてきました。
濡れた手をタオルで拭いて、キッチンを出ようとすると、取り付けたベルの音色と共に、ドアが開きました。
「こんにちは。あれ、ベルだ。あぁ、良い香り」
佐野美香さんは、食堂に入るなり深呼吸をしました。
「いらっしゃいませ。ふふっ、そのベル素敵でしょう?お好きなお席にどうぞ。今日は窓際のテーブルなら、満開の桜が楽しめますよ」
「綺麗・・・!ここにしますね」
「お食事、すぐにご用意しますね」
美香さんは席につき、ゆったりと窓の外を眺めています。
窓からのそよ風に、美香さんの髪がさらりと流れるようにゆらぎました。
「あのベル、優しい音がして、この店にぴったりですね。あ。おにぎりは梅干しでお願いします」
「はい、かしこまりました。今日は雅紀さんはいらっしゃるのかしら?」
「仕事が終わったらすぐに来るって言ってましたよ。美味しいイチゴがあるみたいで、持ってくるって言ってました」
「いちご!楽しみですねっ!」
食堂の前で看板に絵を描いていた葉子さんが真っ先に反応したので、美香さんも笑っていらっしゃいました。
「それにしても、ここはいつ来ても良い香りでいっぱい。落ち着くし・・・何だろう。実家・・・大好きなおばあちゃんのお家に帰った時みたいな安心感があります」
「まぁ、それは嬉しいですね。はい、お茶ですよ。お料理、すぐにお持ちしますから」
私がお茶をお出しすると、「ありがとうございます」と会釈してから、湯飲みに両手を添えて窓の外を眺めていらっしゃいました。
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