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「あー・・・美味しい」
佐野さんが、味噌汁を飲んで噛み締めるように言います。
「良いなぁ。私も雅紀君をあんな顔にさせたい」
「え?」
美香さんがぽつりと言った言葉に、佐野さんはきょとんとした表情で聞き返しました。
「ここのおにぎりとお味噌汁は、やっぱりどれだけレシピを教わっても簡単に再現は出来ないんですよね。間違えずにやってるはずなのに」
美香さんは、頬杖をつきながら佐野さんを見て苦笑しました。
私は美香さんの食器を片付け終え、珈琲を淹れています。
葉子さんは、上機嫌でイチゴを洗っていました。
「美香さんの味噌汁も美味しいよ!?今まで作ってくれた料理、どれも美味しかったよ」
「違うのよねぇ・・・雅紀君。まぁ、こればかりは経験を積むしか無いのかも」
「経験・・・っていうより、想いかも!」
ハッとしたように、葉子さんが人差し指を立てて言いました。
「あら、想いですか?」
私が訪ねると、葉子さんは「うんうん」と力強く頷きます。
「ハルさんって、野菜作るのも、お料理するもの、すごーく丁寧でしょ?丁寧っていうか、食材を凄く大切に扱ってるというか。それに、作ってるときもずーっと嬉そうにしていますよ」
嬉しそうに。
それは気が付きませんでしたが、言われてみればそうかもしれません。
私はいつも、このお料理を食べたらお客様はどんな顔をしてくださるだろう。
どんな言葉を言ってくれるのだろう。
そればかりを考えていたので、思わず頬が緩んでいたのかもしれませんね。
「ハルさんのお料理は、レシピも素晴らしいけど、気持ちがすごーく大事なのかも!」
そう言いながら、葉子さんは洗ったイチゴを人数分のお皿に取り分けました。
「雅紀君への愛情は込めてるはずなんだけどなぁ」
美香さんが腑に落ちない表情をして言いました。
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