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お二人が帰られ、葉子さんは看板作り、私は後片付けやお花の水やりをしていると、あっという間に5時になっていました。
「ハルさーん、ちょっと休憩しましょうよ。お茶、淹れましたよ。ここ置いておきますね」
裏の畑で雑草を取っていると、葉子さんが食堂から大きな声で言いました。
手を洗って食堂へ戻ると、葉子さんが先に窓際のテーブルについて手招きしていました。
ぽんすけは、その足元で、尻尾をぱたつかせながら、お座りしてこちらを見ています。
「ありがとうございます。よいしょっと」
「夕方の桜も綺麗ですよねぇ」
葉子さんが窓の外を眺めながら、うっとりするように仰いました。
「そうですね。夜明け、昼間、夕方、夜と違った雰囲気がありますね」
「寝坊助の私には、夜明けの桜は拝めそうにないですー」
葉子さんはそう言って、苦笑いしています。
「でも、これが平成最後の桜かぁ。そう考えると、何だか少し寂しく感じますねぇ・・・」
「何事も終わると聞くと、突然今までより尊いものに感じますよね」
春の西陽に照らされた桜は透明感があり、どこか儚げでとても美しい。
新しい時代になって
変わるものもあれば、変わらないものもある。
変わることの良さ、新たなものに対する希望に満ちるのは、とても素敵なこと。
ですが、おにぎり食堂『そよかぜ』は、きっと変わらないでしょう。
変わらないが故の良さというものも、きっとここにはあると思っています。
人は年を取りますし、生きていく上でどうしても変わってしまう事もあります。
そんな中でも、ここに来た方が心落ち着ける場所でありたいと、切に願っております。
「ハルさん、後で看板見てくださいねっ。良いのが出来ましたから」
「あら、それは楽しみですね」
ぽんすけは、玄関の前に置いてある看板に駆け寄り、嬉しそうに見上げていました。
ふふっ。
きっと、上手に描いてもらったのでしょうね。
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