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体長は10cmにも満たないが、気が付くと何体ものルーク星人がホームの宙空に漂っていた。多香子を睨みすえている男性は、そのひとりが憑依しているに違いない。
(ガルキメデス星雲第3星系5番惑星ルーク。頭脳派で自らを透明化出来、他の生物の精神を支配して、いくつもの惑星文明を滅ぼしてきた凶悪な宇宙人だわ。そんな彼らがなぜ地球に)
多香子はきっ、とルーク星人を睨み据えた。
多香子の着ているブルーグレーを基調とした隊員服は、特殊合金を編み込んで強固ではあるがしなやかさも兼ね備えており、軽やかに身体にフィットし咄嗟の事態に素早く対処する事に何の支障もない。
ルーク星人は多香子の心にテレパシーで話しかけてきた。
{おや、こんな宇宙の片すみの星で会うとは奇遇だね、クリスタルセブン}
ルーク星人は多香子の正体を知っていた。
ある意味、多香子は侵略宇宙人にとっては知られた存在と言って良い。
宇宙特捜隊の本部星に生まれ、類まれな潜在能力を持ちながらも戦う事を嫌い、辺境惑星系の調査員に自ら志願して旅だった変わり者。
{しかし、君はこの星を守るためにここに居るのではないだろう。余計なマネはしないことだ、クリスタルセブン}
(そうは行かないわ。平和に暮らす罪もないこの星の人たちに危害を加えることがあるなら、私は私に出来る精一杯の力であなたたちの前に立ちふさがってみせる!)
と、多香子は胸の前で拳を握りしめた。
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多香子のすぐ近くにいた中年サラリーマンが多香子の仕草を怪訝そうにちらりと見た。
あ、いや、これはね。
多香子は握りしめた拳を所在なげにおろして後ろ手に組んだ。
2、3m離れたところに母親に連れられた子供がいる。まだ小さく保育園にそろそろ上がろうかというあたりかもしれない。
子供は「ほら、ママのそばにぴったりくっついているのよ、あぶないからね」と抱き寄せられながら持っていたおもちゃで遊んでいたが、サラリーマンが多香子を見た時に、その所作に惹かれたのか、多香子の方を振り向いた。
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ルーク星人はあまねくホームに散っていて、これがこの場にいる客の目に見えていたら大変なパニックとなりそうだった。
「我々はこの星に探しものをしに来たのだ。それは誰にも邪魔させない。例え君でもだ、クリスタルセブン」
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