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ルーク星人に意識を乗っ取られている30代男はやぶにらみのようにこちらの方を睨み、ゆらりと腕を上げて多香子を指差した。
するとそれが合図かのように周りのルーク星人たちが一斉にホームの客たちの耳の中にするりと入り込んでいく。
「やめなさい!」
多香子はテレパシーで叫んだが、その場にいる客のほとんどは一瞬にしてルーク星人のあやつり人形となった。
もはや自我を消された客たちはのろりのろりと多香子目がけて迫ってくる。
星人の襲撃を逃れたわずかな客は異変に気付き、多香子とその周囲に注目し、後退った。
「皆さん、早く非難を!」
恐れおののく自我を維持する客たちに叫ぶと、多香子はおもむろにジャケットの内側に手を差し入れた。そこにある何かを取り出そうとして、多香子はためらった。
緊急時に使うアイテム。
それは細胞の配列を故意に変化させて多香子に強大な力をもたらすものだが、同時に肉体に与えるその急激な負荷が彼女の体力を大きく奪うものでもあった。
多香子に向かうルーク星人の操り人形は、歩きながら異形に変わろうとしていた。
人の形は留めながら、その皮膚は金属のように硬質化し腕はマシンガン状に、またある者はロケットランチャー状に変形し、さながらその姿はロボットのようだった。
多香子はかぶっているヘルメットのバイザーをおろし、ホルスターの留め具を素早く外していつでもガンを抜けるように身構えた。
ロケットランチャーが火を吹いた。
マシンガンもででーーっと発射音を撒き散らす。
天井は崩れ落ち、命中した壁は破裂四散し、ホーム上の星人に支配されていない自我を持った人々の上げた悲鳴はその轟音にかき消された。
「危ない!」
多香子はホルスターからガンを抜き、四散する岩塊を素早い所作で撃ち砕いてゆく。
岩塊は細かい破片となって左右に飛散し、直撃をまぬがれた客たちは一刻も早くこの場から逃れようと改札への階段を駆け上がる。
多香子が次に狙いを定めたのは憑依された人間たちの、変化した腕だった。
「ごめんなさい。出来るだけ人間は傷付けたくないけど、これ以上破壊が続くとトンネルが崩落してしまうから」
多香子の構えたガンから収束されたビームがマシンガンを、ロケットランチャーを的確に捉えてゆく。
が、砕け散った腕は空中から霧が集まるようにゆらゆらと周囲の空間が歪んだかと思うと、再び蘇生していく。
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