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第1章 予兆
ファンファーレが大音量で鳴り響いた。
深い眠りから引きずり出された明良は、目覚ましを手探りで止める。
時計の針は午前4時半をさしていた。
またか、セットした時間より2時間も早い。まだ夜が明けてすらいない。数日前から目覚ましが好き勝手な時間に鳴るようになった。
新婚旅行でドイツに行った時、クリスマスマーケットで鞠子が一目惚れして買ったものだ。
アンティークの木彫りのティディベアが、時計を抱きかかえているかわいらしいデザインで、手にとって弾けるように笑った鞠子は、本当に綺麗だった。
修理しよう。
近所迷惑になりそうな音で、スヌーズ機能もなく、三日に一度は時刻合わせをしないと狂うし、およそ実用性に欠ける時計だが、二人にとっては大切な思い出の品だ。
明良は目覚ましをそっとサイドテーブルに戻し、iPhoneのアラームをセットしてもう一度眠りについた。
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