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広かったはずの広間が、二人が切り結ぶことにより狭く見える。
弾け、刃同士が擦れ火花が散る。
呆然として見た衣音の肩を、何かがふわりと包んだ。
見れば、玻璃王の狩衣の袖だった。
「…っ、玻璃王」
その顔を見れば、静かに、漆黒の双眸が衣音を見下ろしていた。
「見るな。じき、終わる」
「……、玻璃王、…俺を……」
殺して。
囁くようにその言葉を零すと、玻璃王は衣音の濡れた唇をその唇で塞いだ。
「!」
驚いて、間近に見えるその瞳を見つめると、更に深く玻璃王は衣音を求めてきた。
戸惑う衣音の舌先を柔らかく包み、玻璃王は衣音の咥内を愛撫した。
「ふ…っ、く…、ぅん…」
玻璃王の求めるまま、衣音は唇を重ね、体が、再び熱くなっていくのを感じていた。
背後では、刃が切り結ぶ音が続けざまに弾け、遂に何かが落ちる様な音が響いた。
水が吹き出すように、闇に血飛沫が舞う。
床に転がったのは、牙迅王の首だった。
「おの…れ…六間よ…」
血を零したまま、唇を歪め、牙迅王の首は喋り続けた。
「我を…謀った…な…」
蒼真は、足元に転がった牙迅王の首の頂点から、一突きすると、牙迅王の首は沈黙した。
刀に纏った血を払い、蒼真は鞘へと仕舞うと衣音と玻璃王へと向き直る。その表情は、いつもどおり穏やかだった。
「さあ、帰ろう」
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