拾章

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 出逢って直ぐの頃は自信家で威圧的で人の意見を聞き入れない所もあった彼が、今は別人のようだ。 「オレの安心出来る場所は、藍のいる場所だよ」  色々な事があったけれど、結局は藍の元に戻ってしまう。そこが定位置なのだとはるか昔から決まっていたかのように、今は離れられないでいる。 「藍が行く場所にオレはついていく。藍が行きたい場所が、オレの行きたい場所だから。紫ノ宮に戻るのが藍にとって一番ならオレはそれに従うよ。藍を信じてるから」 「……俺は……紫ノ宮や古い体制のα家系をこれをきっかけに変えていきたいと思ってる。Ωが生きやすい世の中にしたい。その為には紫ノ宮に戻った方がいいと思ったんだ」 「そんな世の中になるかな……」  Ωを軽視しない、優しい世界。  Ωに産まれても誰も傷つかない、そんな世の中に。 「時間はかかるかもしれない。でも紫ノ宮には財力も権力も無駄にあるからさ、しっかり利用させてもらうよ」  さあ、もう寝よう、と永絆の額にキスをして目を閉じる藍。  その端正な寝顔を見つめながら、彼ならきっとΩにも生きやすい世の中に変えてくれると思った。  元々は跡継ぎとして厳しく育てられてきた藍が、Ωを番にした事を正式に発表すれば世の中のΩ蔑視の風潮にも影響が出てくるだろう。紫ノ宮とはそういう家だ。 「藍ならきっと、大丈夫」  仕事の疲れからか直ぐに寝息をたて始めた藍の頬にそっと手を伸ばし、撫でながら囁く。 「おやすみ、藍」  
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