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全身から花の香りがする。
重ねた口唇から伝わる体温に何故だか涙が出そうになった。
抱きしめたい。
強く優しく抱きしめたい。
けど抱きしめたら離したくなくなる。
このまま連れ去って閉じ込めてしまいたくなる。
そんなんじゃダメだ。
それをしたらオレはコイツを苦しめるだけの存在になる。そんなのは嫌だ。
初めてなんだ。こんなに大切にしたいと思える存在は。
だから絶対に、コイツの自由を縛り付けちゃいけない。
ゆっくりと名残惜しむ様に口唇を離すとオレの方から目を逸らした。
二人共、しばらく無言だった。
「……じゃあ、そろそろ」
先に口を開いたのはソイツで、それはこれでもう二度と逢えないという事だった。
「あのさ……」
「なに?」
「名前、教えて」
「もう二度と逢わないのに?」
「……そう……そうだったな……」
鞄の中に散らばった薬を入れて、背中を向けたソイツが車のドアを開けようとする。
引き止めたい衝動を抑えて、背中をじっと見つめていた。
「もし、さ」
「うん?」
一度こっちに振り返ったソイツは少し迷ったような顔で慎重に言葉を選ぶ。
ソイツからの言葉をじっと待つその少しの時間がもっと長くなればいいのに。
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