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――コイツだ。
一目見た瞬間にわかった。
噎せ返るような花の香りを漂わせて苦しそうにしゃがみ込むソイツを見て、本能がそう告げていた。
きっと向こうもそう感じたに違いない。
オレから目を逸らさずに息を乱して顔を赤らめている姿は誘惑しているようにしか見えなかった。
ギリギリで保った理性で、ソイツを立ち上がらせると抱き上げて走り出す。
こんな沢山の人間がいる街中で、これ以上この香りを撒き散らしたらどうなるか、考えただけでもゾッとする。
腕の中のソイツの香りに頭がおかしくなりそうだ。
いや、もうおかしくなっているんだろう。
待たせていた車にソイツを押し込み、オレもその隣に座ってドアを閉めた。
「早く出せ!」
運転手は何も悪くないのに声を荒らげて命令した。
慌てた運転手がエンジンを掛けて車を発進させる。
密閉された車内にはソイツから醸し出される香りが充満して、オレは今にもソイツに手を伸ばしそうになる。
「薬……抑制剤は!?」
頼むから早く飲んでくれ。
そしてその発情した匂いを治めてくれ。
そうじゃないとオレは……。
お前の項に噛みつきたくてどうにかなりそうだ。
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