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そのうち車内に充満していたキツイ花の香りが薄まってきた。抑制剤が効いてきたのだろう。
それでもまだ匂いは完全に消えはしなかった。それはお互いが惹きあっている証拠だった。
「あの……」
少し車を走らせて路肩に車を停めさせた。
やっとお互い落ち着いてきた頃、ソイツが話しかけてきた。正直、どう対応したらいいか分からなかった。ただ、あまり顔は見ない方がいい気がした。
コイツは特別だ。
薬を飲んだからといってまだ抑えきれないフェロモンが香っている。この匂いを感じてるのはもしかしたらオレだけなのかもしれない。
「これ、使って下さい」
言われてチラリと見てみるとまだ少し震えてる手にハンカチが握られていた。
「血が……」
「……大丈夫だから」
「でもっ」
滲み出した赤い血液が服に染みとなって広がっていた。ズキズキと痛みも走る。
コイツを無理やり抱くのと、この痛みとならどっちが正解だったのか。
「……失礼します」
一向にハンカチを受け取らないオレに痺れを切らしたのか、いきなりオレの手を引っ張りハンカチで噛んだ痕をグルグルと巻き出す。
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