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 足音だけが響く、地下道。  灯りは先頭を歩くイルニス王家に仕えている壮年の執事、ファラルの持っている豪奢な装飾を施されたオイル・ランプだけ。  光の届く範囲から少しでも離れれば、つま先すらも見えないほどの闇に囚われるだろう。  吐く息が低く反響する、通路と言うよりは洞窟と言った方がしっくり来る狭苦しい道を、サオシュヤントは震える体を擦りながら、黙々と進んでいた。  季節は、長い冬のただ中。  遙か頭上は、分厚い雪が積もった銀世界だ。  丈夫そうな石造りの壁からは、凍てついた冷気が地下水のようにじわりじわりと滲みだし、ろくに灯りもない地下道の寒さは生半可なものではない。  もしかしたら、雪の積もる外よりも酷いのではないかと思う。  凍り付いた大河を渡り、大雪原の王国イルニスに来たサオシュヤントは、本来ならば、王城の敷地内に足を踏み入れることなどできない身分だ。  流れの傭兵然とした、すり切れた毛皮の外套と飾り気のない剣を腰に下げただけの格好は、闇の中でも見窄らしいのが十分に分かる。  よく手入れの行き届いた、暖かそうな外套を翻す王女がとなりにいるとなれば、なおさらだ。     
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