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「もう少し歩けば、聖聖堂だ。階段を下りればすぐ聖堂、なんて思っていては大違いだ。我がイルニス王家の要である王城の真下に、あんな危険なものを置いておけるわけがないだろう!」
豊かな髪が動く度、甘いにおいが鼻孔をくすぐる。香水を付けているようには思えない、子供特有の若い体臭だ。
小さく整った鼻先を突き出して少女、雪原の強国の唯一の王位継承者であるラジュ・ファデ・ル・イルニス王女は、意志の強すぎる緑色の目で、サオシュヤントを睨みつけた。
「たしかに、他の国では《アルカ》を堂々と飾っているような輩も居るようだが、そんな愚行を冒すのは、頭が空っぽな平和ボケした人間だけだ」
同感だ。
ラジュが息巻くように、アレは危険なものなのだ。
サオシュヤントは、こめかみを締め付ける痛みに呻いた。ラジュに感づかれないよう、小さく舌打ちをする。
まとわりついて離れない過去を、今は心の奥へと押し込んで、先頭を歩く執事が灯す光を目印に進む。
「とはいえ、一応は信仰の対象でもある。本来ならば貴様のような得体の知れない流れ者を……その、貧相な格好で拝謁させるものではないのだ!」
天井からこぼれ落ちて溜まった砂を踏みしめると、ずるりと、苦痛等が滑る。実に、不安定な道だ。もう、ずっと手入れをされていないのだろう。
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