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七夕の帰り道
「ほづみさんと、七夕の夜を過ごせるなんて、夢のようです」
「みんなで、夕飯を食いにきただけだ」
ほづみとしては突き放したつもりだったのだが、遼は鼻歌まじりの軽い足取りだ。
「そうですけど、今、僕の隣にいるのはほづみさんだけです」
「通行人がいるぞ」
「ムードが台無しだなぁ」
子供ですね。
と言われたような気がして、ほづみは歩調を早めた。
「ほづみさんは、短冊にお願い書きました?」
「もう四十だぞ。書かない」
「お願いごと、ないんですか?」
振り払ってもついてくる遼に、ほづみはイライラと舌打ちをする。
早歩きのせいか、額には汗が滲んでいた。
「僕は、織姫と彦星が出会えますようにって書いたんですよ」
「そりゃあ、随分と、人のいいお願いごとだな」
遼は口の端を持ち上げ、「ええ」と頷く。
「夢の中なら、なんだってありですしね」
「……俺は彦星じゃあないからな」
「何方かと言えば、織姫じゃあないですか?」
にまっと笑った遼が、ほづみの尻をそろりと撫で上げる。
「ひえっ」
口をついてでた悲鳴にほづみは赤面し、遼のスネを蹴飛ばした。
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