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近づいていくうちに、全く動く気配はない。
やはり、マネキンなのか、と、思った瞬間、
うつ伏せからゆっくりと仰向けに寝返りをうった。
蒼は声も出ず、その場で座り込んだが、今度は声を出さずにはいられなかった。
「碧!?」
寝返りをうって現れたその顔は、紛れもない弟の顔碧の顔。
月光の中、喘ぐような呼吸、汗で光る身体は、うっすらと透けて、彼岸花が碧の身体を通して見えた。
「碧!?碧!」
蒼はジャケットを脱ぎ、碧にかぶせた。
「警察?救急車?」
蒼の頭は混乱していたが、ジャケットのポケットからスマートフォンを出すと、震えが止まらない指で画面を操作していた時ーーー
ふと、腕を掴まれた。
「にぃ……さん」
弱々しく掴んでいたが、どんどん力が入っていく。
「み……どり?」
「大丈夫だから……」
蒼はスマートフォンを落とした。
いつもの碧からは信じられない握力だった。
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