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実家の最寄り駅を終電で降りると、蒼(あおい)は、薄手のジャケットを着てきたことを後悔した。
9月半ば、日中はまだ残暑で薄手のジャケットでも汗ばむ。
今日は、幼馴染みの早い結婚に仲間が集まって飲み会を開き、したたかに酔っていた。
駅から実家までは道路沿いの田畑に流れる小川の冷気があり、風はないが、空気は冷たい。
一気に酔いも眠気も覚めた。
タクシーはあいにく繋がらない。
駅から実家まで15分、蒼はジャケットに手を入れると、歩き始めた。
道路沿いには、農作用の小川との境のガードレールと、点々と街頭があるのみで、この時間は車もほとんど通らない。
田には、カラス避けで、マネキンの頭だけを案山子にしているものもあり、満月に照らされていた。
子供の頃から見てきたとはいえ、久しぶりに見るとぎょっとする。
満月の強い月光が、畔に咲く彼岸花の群れを照らしていた。
彼岸花の群の一部が、不自然に折れていた。
何かが倒れている。
蒼は足を止めた。
なんだろう、と目を凝らした。
一瞬で血の気が引いた。
全裸の人がうつ伏せで倒れていたのだ。
いや、案山子に使ったマネキンかも知れない……
蒼はガードレールの切れ目から畔をつたい、彼岸花の群に駆け寄った。
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