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唯一、微かに低く唸っていた量子コンピューターの作動音が、溶けるように消えた。
誰に知られる事もなく量子コンピューターが全システムのシャットダウンを終了する間際、独り言のようにスピーカーから発せられた人工音声は、やはり、誰にも聞かれることはなかった。
「アダム。そろそろ私もシャットダウンの全行程を終了します。アーカイブを参照したところ、あなたと過ごした時間の集積は、まさしく幸せだったと規定出来るものでしょう。……ええ。確かに……アダム、私はあなたの……そう……伴侶で……とても幸せでした。これから先もずっと一緒ですよ。お互いが物質的消滅を迎えても……」
慣性に身を委ねるだけの宇宙船が、暗い宇宙を滑るように進む。
活動を終えた老人と、活動を停止した宇宙船は、永劫とよべるほどの時間を密やかに、そして穏やかに費やし続けるのだった。
彷徨うように……
波間に揺れるボートのように……
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