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「……私もシステムのシャットダウンを開始しますね。後は、どこかの惑星の引力に引かれて落ちるか、恒星が私たちを火葬してくれるか。もしかしたらブラックホールにつかまるかもしれないですね。とは言え、それらのどれかひとつにでも遭遇するのは、最低でも4000億時間以上は後になる計算ですけれど」
再び音声が途切れると、船内の照明が全てブラックアウトし、等加速エンジンの燃焼が止まった。
───そして。
全てのシステムがシャットダウンするまでの間、宇宙船そのものでもある量子知能が、蓄え続けてきた膨大なバックアップデータにアクセスを開始した。
死を間際にした人間は皆そうするのだと、かつてEVEと名付けられ、そう呼ばれていた宇宙船は知識として学習していたのだった。
艦橋に独り座した老人が息をひきとる始終をバイタルチェッカーを通じて見届けたその時、機能を終了しようとするアダムの脳髄が最後に思い返したこととは一体何だったのだろうかと、EVEは考えた。
そしてまた、シャットダウンという死を迎える時、自分は何を思い返すのだろうかと。
おそらくそれは、人の手によって生み出された量子知能に芽生えた、ひとつの好奇心だったのかもしれない。
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「後悔するにはもう遅いところまで来ましたけれど、本当に良かったのですか? アダム」
アダムは寝そべるほどに倒したシートに深々と身を沈め、腹の上に両手を組みながら、壁面を埋めるモニター越しに広がる星の海を眺めていた。
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