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「そうだね。君の言う通り、もう、後悔するには遅いところまできてしまったからね。今更、良かったも何もないってもんさ」
倒しきったシートを少しばかり起こしながら、アダムは言う。
「君を独りにすることなんてできるはずがないだろう? それよりも、久しぶりに火をつけたエンジンの調子はどうなんだ? この先、文字通り死ぬまで二人きりなんだ。どうせ死ぬだけの未来でも、遅ればせながらのハネムーンを満喫できるにこしたことはないからね」
「……あなたは、本当に面白いことを言うのですね。私はただの船ですよ? アダム」
「そうさ、君は船で、そして、この船の全権を掌握する量子コンピュータで、エゴイスト型の量子知能で、僕の子を120人も産んだ母で。そして……たまたま生き残ってしまった僕と、あの星で30年の地球時間を共に過ごした、つまりは……」
「伴侶、とでも言いたいのかしら?」
EVEからの言葉を聞いて、アダムが少し眉を寄せる。
「照れるという感情発現は、まだ学習していなかったかい?」
「会話パターンの分析によると、このような時には嬉しいという感情が近しい気がします」
アダムが顔をほころばせた。
くっくっと喉を鳴らして笑う。
この笑いの意味も、EVEには伝わっているのだろうか。
アダムはそんなことを思った。
「やっぱりあなたは酔狂な人です。アダム」
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