13万と4000億時間のハネムーン

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「いやはや、EVE。君は本当に最高だよ。やはりこれは、30年越しのハネムーンだ。おかしな話だなんて言わないでほしい。人間の僕と、量子知能の君との間には、間違いなく愛が生まれていたということなのだからね」 「どう解釈していいものか難しいですが、それはさておき、宇宙を彷徨うだけのハネムーンには付き合うしかなさそうですね。あなたの生体活動が終わるまで」 「そうだとも。さらには、行き先もない。等加速で数十年程度を往ったところで、結局のところどこにもたどり着きやしないんだからね。のんびりと、二人で時間を過ごすだけの日々さ。俺が死ぬまでしっかり付き合ってくれよ」 不時着以来、30地球年ぶりの航行だったが、少なくとも空調は順調だった。 緩やかな風が室内を流れている。 快適な空調の中で、ブリッジ中央のシートでくつろぐように深く座るアダムは、長く、宛てのない旅の始まりにすっかり高揚していた。 こんなにも無責任に、こんなにも自分のためだけに生きるのは、きっと生まれて初めてだ。 これから先、ただただ宇宙を彷徨う時間が楽しみでならなかった。 EVEと共に、死を迎える瞬間を待つためだけに過ごす時間はきっと、楽しみに満ちたものとなるに違いない。 「では……、まずは音楽でも流しましょうか。ミュージックプレイヤーも30地球年ぶりの起動ですから、ライブラリに損傷がなければ良いのですが」 「おや、君もなんだかノッてきたじゃないか。EVE」     
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