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「本当に意地悪な人ですね、あなたは。量子知能をからかわないでください、アダム……それより……、何かリクエストはありますか?」
EVEの問いにアダムはしばらく考え、「クラシックなのが良いね」と告げた。
その声はまさしく、楽しくてしょうがないといった響きだった。
少しの時間をおいてスピーカーから流れ出した音楽が、艦橋の空気を揺らし始める。
「あら、右後ろのモニターを見て下さいアダム、すっかり小さくなってしまいました」
一人の男と宇宙船の形をした量子知能が、子を産み育て種を残しつつ、ともに30年の地球時間を暮らした星で眺め続けた恒星が、壁面のモニターの中で白く輝く小さな粒になっていた。
その様を告げるEVEの、中性的で無感情な抑揚の人工音声も、高揚した感情を微かに含んでるようにアダムには聞こえた。
室内に響く数百年前のロックミュージックに、アダムは耳を傾ける。
曲名はStar Manというらしい。
EVEなりに僕に向けて選曲したのだろうかと、アダムはそんなことを考えながら、遠く小さくなっていく赤い恒星を映すモニターを、ただただ嬉しそうな笑顔で見つめるのだった。
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静謐と暗澹に包まれて、億光年の星の海に浮かぶ宇宙船。
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