四、鼓動

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四、鼓動

「──ああ、鼓動が聞こえる。美沙ちゃん、ほら」  私の手を掴んで引っ張るお姉ちゃんの力は思っていたより強くて、また突然だったものだから、遠慮も拒絶もする暇もなく目と鼻の先の距離まで近付けさせられる。  根元に足を引っ掛けたせいでそのまま幹に抱き付いた私の耳に──  どくん。  と、大きく脈打つ心臓の鼓動のような音が一つ、確かに届いた。  同時に、大木に密着した体全体に感じたのは、人肌と同じ温もりだった。 ざらざらとした質感の木の肌に、まるで人と同じく血管が何本も通っているかのような熱と鼓動を感じて、弾かれたように飛び退いた。  木葉が再び、ざわめき始める。 「聞こえたでしょう? この木はこれから、健一さんの魂が宿る器となるの」  つい数秒前に肌身に感じた体温と、耳にはっきりと届いた鼓動が信じられなくて、恐ろしくて。  何も言えずに立ち竦んでいる私の手を取ったお姉ちゃんは、あの困ったような微笑みをまた顔に浮かべて、首を傾げた。 「美沙ちゃんは──私の話、信じてくれるわよね?」  お姉ちゃんの柔らかい両手は、木の肌に抱き付いた時に感じたのと同じくらい温かかった。
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