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夕焼け、坂道、手繋ぎ夫婦
瞬くと、落ち着きのない素振りで周囲を見渡す男と、そんな情けない夫を苦笑いで見守る女がいた。
「もういいんじゃないですか?」
「何が?」
新妻の問いにも上の空のサンタは、他人の視線が自分たちに向いていないか心配している。
「だから、これ」
そう言って柊が珍しく繋がれた二人の手を可笑し気に翳すと、夫は慌ててそれを制した。
元来、極度の恥ずかしがり屋であるサンタが人前で手を繋ぐことなどありえなかった。
が、この日の男は前日に見たドラマに大いに感化され、夫婦はそうあるべしと珍しく妻の手を取ったのだった。
「いやさ、やっぱり俺、夫婦っていうのは手を繋いでなんぼだと思うのよ」
ミーハー男は知った風なことを言う。
「すべての基本、ですか?」
「そう、それ」
ドラマの受け売りをそのまま鵜呑みにして夫は満足げに頷く。
「でもあなた、これまでにこうやって手を繋いでくれたこと、ありましたっけ」
得意げな態度が少々鼻についたので、柊は本質的な質問を投げつけてみる。
「いや、だからさ、今こうやって―――」
「昨日のドラマでやってたから、自分もやってみたくなったんですよね」
夫は図星を衝かれ、途端にしどろもどろになる。
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