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「この一年の報告書です。必要な分はご自分で書き足して下さい。元々資金援助を得る為の実験だったのでしょう? なら、報告の義務が有る筈だ。この花が咲くのは今夜が最後。これ以上は花純の身体が持ちません。だから、僕らの最期を見届けて貰おうと思って、あなたを呼び出しました」
「おい、最期を見届けるって……一体何をする気だ?」
サッと顔面を蒼白にした教授は、慌てて朔に縋りつく。
「地獄変には、良秀と同じ名前の小猿が登場するんです。娘を慕って止まない小猿は、父親である良秀に残る僅かな良心の象徴なのかもしれませんね」
朔は教授の胸ぐらを掴むと、そのままぐいと強引に温室の外へと押し出した。
「な……っ、き、君はまさか!」
「もっと離れた方がいい。ここはすぐに火の海となる」
続けて笹原も放り出され、温室の内鍵がガチャリと掛けられた。
ボウッと言う小さな音が聞こえたかと思うと、それはみるみる温室内に燃え広がり、中に残された朔と花純を取り囲んだ。
「ああ……か、花純……」
燃え盛る炎に捲かれ行く二人。
麻生教授と笹原は、温室の外から呆然とその様を見つめ続けるしかなかった。
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