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笹原はバイヤーなどではなく、珍しい花に目がないだけの好事家だ。
今までも、目に留まった花を見つけては、金に物を言わせ集めて来た。
片田舎の小さな店で見つけたのは、昼日中に美しく花開く大輪の月下美人と言う花だ。
たまたま店の隅にあった物を目ざとく見つけ、その時は無理を言って譲って貰った。
通常、月下美人は夜に花開き、朝を待たずに開花を終えてしまう。
だがその月下美人は、一晩どころか昼日中まで咲き続けたのだ。
けれども花が咲き終わると、すぐにあっさり枯れ果ててしまった。
笹原はすぐさま再び来店し、株分けを申し出た。
「株分けをした所で、あれは誰にも育てる事は出来ません。それが出来るのは妻だけなんですよ」
「なら、奥さんを世話係としてうちで雇うと言うのは? 賃金は弾みますよ」
「いいえ、もうあの花の事はお忘れ下さい。元々売り物ではなかったのですから」
そんな押し問答がこの数ヶ月間ずっと続いている。
それ程までに、笹原はその花に執着していた。
いや、意地になっている、と言った方がいいのかもしれない。
「ふん。そこまで言うのならば、いっそ女ごと手に入れてやろうか……」
そんな画策まで練っていた。
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