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大学の研究員だった荻野朔は、小さなフラワーショップを経営する麻生花純と出会った。
その容姿は勿論の事、彼女の花に対する思いの深さに、元々植物好きだった朔はひどく惹かれた。
彼女に会いたいが為に、暇を見つけては店に入り浸って色々と仕事を手伝うようになった。
花純も心優しい朔の人柄に惹かれ、次第に二人は恋仲となっていった。
「え、それ本当?」
「本当です。私もびっくり」
ある日の会話で、二人の共通点が発覚した。
「朔さんが、まさかうちの父の大学で、しかも父の助手をしていたなんて。私ってば、勝手に文系だと思い込んでいたから」
「え、どうして?」
「だって、初めて会った時に、芥川の文庫を持っていたでしょう? 朔って名前も何だか……」
「はは、理系が文学書を持ってたら可笑しい? 小説は好きだよ」
彼女の仕事を手伝いながらの、そんな他愛のない会話が二人の至福のひとときだった。
大学で教授を務める花純の父親は、バイオテクノロジー研究の第一人者と言われる人物。
主に新種の植物を造り出す研究に力を入れている。
偶然にも朔は、麻生教授の助手としてその研究に携わっていたのだ。
笹原が欲しがっているあの花は、教授が特に入れ込んでいる研究サンプルの一つだった。
「私ね、本当は自然の摂理に逆らわずに育った、野山に咲く草花の方が好きなの。だから、あの研究所にいる植物達が何だか可哀想で」
「そうか……」
そんな花純の言葉は、朔の胸に深く突き刺さった。
他の研究に携わると言う手もあるが……
朔は悩んだ末に、全てを教授に話して大学を辞め、花純と一緒になる覚悟を決めた。
その決意が、二人の運命を狂わせる引き金になるとも知らずに。
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