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「あなたはその主人公である絵師の良秀そのものです。良秀は自分の欲望の為、溺愛する娘を見殺しにしました。そしてあなたも、愛する娘を自分の実験体としてしまった」
「それは……! 図らずも、そうなって……」
「そうですね、本当は娘を実験体になんて考えてもいなかったのでしょう。花純に苗を植え込んだのは、彼女に振られた事を逆恨みした僕の同僚ですから。あなたもはじめは半狂乱になって嘆いていたのに」
そこまで話すと、教授を睨み付ける朔の語気が強まった。
「ところが……今まで全く育たなかった苗が、彼女の体の中ではスクスクと育っていった。それが余程嬉しかったんですね、あなたは。彼女への愛が、その強い研究心に負けてしまう程に。そうして彼女を助ける為の研究に着手した僕を強引な方法で排除しようと! だから、僕は花純を連れて逃げたんです!」
教授は黙りこんだ。
何の言い訳も出来ない。彼の言っている事は全てが真実だった。
「この花は非情なまでに貪欲です。急激に成長しては彼女の皮膚を貫き、この世の物とは思えない程の美しい花を咲かせては一気に枯れるを繰り返した。最初は満月の晩だけだった開花時間も気付けばどんどんと長くなり、昼日中まで咲き続けるようになると、遂には枯れる事もなくなった。そうして花純はこの月下美人によって完全に浸食されてしまったんです」
笹原は何が何だか分からずにいたが、いつしか教授は朔の止まる事を知らない話にすっかりと熱心に聞き入ってしまっていた。
きっとこれが、悲しい運命を招いた研究者の性なのだろう。
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